ちいさなちいさな王様
アクセル・ハッケ作 那須田淳/木本栄共訳
ミヒャエル・ゾーヴァ画 講談社
あらすじ
ある日突然、主人公のところに、人差し指くらいの大きさの、太った王様が現れます。王様は、主人公の家の本棚と壁のすきまに住んでいるようです。
そして王様は「僕」に、「お前の世界のことを話してくれ」と言ってくるのです。「僕」はこの世界のことを、そして王様は自分の世界のことを話します。
王様の世界では、生まれたときが一番大きく何でもできるといいます。
そして毎日少しずつ忘れていき、少しずつ体が小さくなっていきます。
いろんなことを忘れ、想像して楽しむ、いわゆる子供時代がやってきます。
王様の世界では小さいほうが偉いので、大きい人は、小さい人の疑問にもとことん付き合わなくてはなりません。
ある日父親がものすごく小さくなって、見えなくなってしまったので、王位を継承したのだと王様は言いました。
王様は「僕」の話を聞いては、自分の世界と比べて「おれの世界は素晴らしい」という考えになるようです。
もっとも「僕」自身それに否定はできません。
王様の世界は、すべてがうまく幸せそうにできているのを感じるからです・・・。
王様は、少しずつ小さくなりながらも、「僕」にいろいろなことを教えてくれます。
たとえば毎日歩いていく会社までの道も、王様と一緒だと全く別の世界になってしまいます。
また夜空を眺めて王様が教えてくれたのは、「僕」たちが死んで星になった後、王様の世界にいつか生まれ変わるということでした。
その話の中、「僕」は疑問に思います。
王様の世界は「死」があるんだろうか?
見えないくらい小さくなったからといって、そこにいないとは限らない。
それなら王様の世界では、ずっと永遠に存在しているということじゃないかな・・・、と。
感想
作者がドイツ新聞に掲載していたものをまとめたのが、この本です。王様と過ごす五つのお話が載っています。
一応まとめて、上のようなあらすじになりました。
この本は、とにかく王様のキャラクターがいいです。
王様だけあって偉そうで、しかも子供のようにわがままで、何だかとても幸せそうで。
「僕」は王様の言うことを聞くしかないのですが、それもうらやましいくらいです。
王様の世界がうらやましい。
多分、読んだ人はみんなそう思うのではないでしょうか。
そうだったらいいな、という夢の世界です。
だけど王様と一緒にいると「僕」も想像力が広がるようです。
それにつられて、私も楽しい気持ちになることができます。
王様はいつかそのうち、見えなくなってしまうのでしょう。
だけどこの物語はそこまで書かれてはいません。
それが何だか嬉しくて、何気ない「終わり」にほっとします。
またいつかこの続きが見れるんじゃないかな・・・そんな気にさせてくれます。