最後の手紙(シリーズ第三巻・最終巻)
リチャード・P・エヴァンズ作 笹野洋子訳 講談社
あらすじ
アンドリアを失ってからの、デイヴィットとメアリーアンは、ずっと苦しみ続けていました。
そして二十年たったある日、ついにメアリーアンは決意します。
それはデイヴィットに別れを告げて、家を出るというものでした。
デイヴィットを嫌いになったわけではなく、心を閉ざしてしまった彼に、もう自分の声が届かないことを悲しんで行くことを決めたのです。
メアリーアンは手紙ひとつ置いていなくなってしまいます。
残されたデイヴィットは、深い悲しみに沈みこみました。
かつてデイヴィットは、母親にも捨てられたのです。
そして今、愛する妻にも去られてしまった・・・。
しかし、アンドリアの墓の前に置かれていた、一通の手紙が彼を動かします。
それは、母親の筆跡とよく似ていたのです。
母親に、なぜ自分を捨てたのかを聞きたいデイヴィットは、悲しみを押さえ込み旅に出ました。
母親の行方を捜すうち、デイヴィットは美しい若い女性、ディアドラと再会します。
彼女と初めて会ったのは、メアリーアンがいなくなった後の、あるパーティーでした。
そのときすでにお互い惹かれあうものを感じていたのですが、再会した後、ディアドラは積極的にアプローチしてきます。
しかしデイヴィットはメアリーアンを愛しているため、どうしても受け入れられません。
旅先で、ある決意を固めたデイヴィットの元に、ローレンスが倒れたと知らせが入ります。
ローレンスは黒人で、彼の友達です。
戻った彼の目の前に、メアリーアンが現れました。
ローレンスを心配して来たらしく、彼の元に戻るつもりではないようです・・・。
そしてデイヴィットは、ローレンスが愛したという、マーガレットとソフィアについて知ることになります。
ローレンスの深い愛情は、とても素晴らしいものでした。
しかしその後、ローレンスをめぐって、悲しい出来事が起こってしまいます。
デイヴィットはそれに何とか立ち向かおうとするのですが・・・。
感想
「クリスマス・ボックス」の第三作目です。シリーズ最終作となりました。「天使がくれた時計」(第二作め)のその後が語られています。
悲しい出来事から、時がだいぶ過ぎましたが、状況は悪くなる一方です。
大恐慌なせいもあり、黒人を恨む、憎む問題がさらにひどくなっています。
それでもデイヴィットは、信念を曲げません。
彼はローレンスだけでなく、他の黒人に対しても常に差別したりしないのです。
その彼の考えは尊敬に値するものですが、それが新たな問題を生んでしまいます。
メアリーアンの問題、母親の行方、会社の状態、ローレンスのこと・・・
デイヴィットに悩みは尽きません。
そんな苦しむデイヴィットに、恋するディアドラがせまります。
どうなるんだろう、とはらはらしながら読んでいました。
デイヴィットはいつでも誠実ですが、彼のような素晴らしい人が独りでいたら、女性が放っておくわけがありません。
そして、デイヴィットの様々な場面での誠実な態度にも感動しましたが、
今回は、ローレンスの愛にも深く感動しました。
彼は黒人であるがゆえに、絶えず苦しみ続けていましたが、
その心は、孤独なだけではなかったようです。
そして彼の存在は、デイヴィットに大きな意味を与えました。
最後に、「クリスマス・ボックス」の主人公、リチャードが、すべてをまとめています。
この物語は、「愛」に満ちたものでした。
読んでいて時に辛くもなりましたが、愛とは、すべてを与えて受け止めて、そして許すものなんだと、教えてくれます。
シリーズを通して、静かなやさしい安堵感に包まれるような気がします・・・。