よその子

 トリイ・ヘイデン作 入江真佐子訳  早川書房


あらすじ
補助員をしていたトリイのところに、あるときブースという七歳の少年がやってきます。
彼は自閉症で、意味のある言葉をまったくしゃべらない子供です。

トリイはクラスを持っておらず、午後だけ他のクラスで遅れてしまった子供たちの勉強を見ているのですが、
その子供たちの一人にロリという七歳の少女がいました。

彼女は親に虐待された子供で、脳に障害があるため読み書きがまったくできないのです。
ロリはブー(ブースのこと)を受け入れ、三人の、非常に小さなクラスが生まれました。

そのあと、今度はトマソという十歳の少年が送り込まれてきます。
彼は季節労働者の子供で、父親と兄が義母に殺された現場を目撃していたのです。

非常に凶暴で、何をするかわからないトマソは、
父親が生きていて自分を迎えに来てくれる、という幻想にとりつかれていました。

彼ら三人の間で右往左往するトリイに、また、別の子供が預けられます。
クローディアという十二歳の少女は、非常におとなしくて優秀な、普通の子供に見えましたが、実は妊娠していたのです。

そしてトリイは、クローディアがとても孤独で、本当は悲鳴を上げているのに
周りから気づいてもらえていない少女だと気がつきます。

トリイは、彼ら一人ひとりを何とか救おうと努力します。
その影で、私生活がうまくいかず、恋人との仲は悪化する一方でした。

トリイは、自分自身誰かにすがりたいという気持ちと戦いながら、子供たちの心を開き、
その成長に力をつくし続けます。



感想
トリイの姿を見ていると、「天使」のようだと思ってしまいます。

汚れを知らない純真無垢の天使ではなくて、本当に天使がこの世にいるとしたら
それはトリイかもしれない、と思ってしまうのです。

トリイは完璧ではありません。
先生としての立場で物事を考えることしかできないから、
失敗も多いし、子供たちにいつも優しくしているわけでもありません。

けれどもトリイは、先生以上の存在です。
心を痛めた子供たちが唯一心のよりどころにできる場所は、トリイのクラスにいるときではないでしょうか。


そんなトリイと子供たちとの関係は、とても素晴らしいものです。
子供たちの背景にある世界は、重苦しくて、残酷です。

そこから目を背けず、トリイはできる限り子供たちを助けようとするのです。
弱くて、勇気が出なくて、打ち負かされてしまうことも多いけれど、
それでもあがこうとする彼女の姿は、本当に尊敬します。


今回四人の子供たちは、それぞれ大きな問題を抱えています。

私がその中でも特に好きなのは、ロリです。
彼女は実の親から虐待を受けていて、脳に損傷があり、読み書きができません。

しかしそんな経験をしているのに、彼女の心は優しくて、絶えず周りの人に
無邪気に親切に接するのです。

ロリがいたから、トマソやブーもすんなりクラスに溶け込めました。

しかしそんなロリも、学校の規則の中で、縛られ、苦しめられるのです。
彼女が読み書きができないのは、脳の損傷のせいで、彼女のせいではないのに、
周りと同じことをしろと責められます。

トリイのクラスに来るのは午後だけで、昼間は普通のクラスに行っているロリは、
そこで絶えず叱責されているのです。


またロリと双子のリビーも、虐待の深い傷跡を背負っています。
彼女は損傷もない普通の子供ですが、心には闇が宿っています。

二人とも今は里親に引き取られて幸せですが、リビーは憎しみを消していません。
そして、いつか父親を探し出して殺してやるんだ、と言うのです。


子供たちの苦しみがあまりにもまっすぐに伝わるので、読んでいるのが辛いときもあります。
でもトリイの深い愛情は、その中にある、わずかな希望を拾い上げてくれます。

理不尽なことばかりだけど、それでも彼らは、トリイに出会えて幸せだったに違いありません。
そして私自身も、トリイの世界と出会えて幸せだと思っています。



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