屋根裏部屋の秘密
松谷みよ子作 司修画 偕成社
あらすじ
夏休みにはとこのエリコから、「山荘に行きませんか」と誘いを受けたゆう子。
山荘は、小児ぜんそくのエリコのために「じじちゃま」が建ててくれたもので、
子供の頃はゆう子もよく一緒に遊びに行っていたのです。エリコは両親を幼い頃に亡くし、じじちゃまとばばちゃま(祖父と祖母のこと。エリコの家ではこう呼ぶ)に育てられていました。
けれども、じじちゃまが病気で亡くなったのです。
心配していたゆう子のところにお誘いが来たのは、ゆう子にとっても嬉しいことでした。山荘でゆう子は、エリコからじじちゃまの遺言を聞かされます。
「花姫の書斎の・・・あそこにわたしの・・・、それをおまえにまかせる。若い世代に・・・」
そしてじじちゃまは「焼いてはならんのだ」とつぶやいて、息を引き取ったのだと。何のことかさっぱりわからない二人でしたが、一つだけ言えるのは、
この山荘にある開かずの屋根裏部屋のことじゃないか、ということです。そこはじじちゃまが使っていた部屋で、いつでも鍵がかかっているので二人はそう呼んでいたのです。
誰も知らないという鍵はここにあるかもしれない。
そう思って、山荘の管理をしてくれているみすずさんと三人で、鍵を探し出します。やっと中に入れた秘密の屋根裏部屋。
けれどもそこにはたいしたものはなく、青い布の室内靴、それとダンボール一箱。
ダンボールの中には、ドイツ語か何かで書かれたたくさんの書類らしきものがあるだけです。これのいったい何が大切なものなのだろう?
なんだかよくわからなかったゆう子たちですが、
ゆう子はその夜、不思議な少女と出会います。ぼんやりとした姿の少女、名前はリュウリィホァ。
彼女は、「私たちをもう一度燃やさないで、灰にしないで・・・」そう言って消えていきます。
やがてじじちゃまが隠していた、そしてエリコに託した秘密が明らかになります。
それは、衝撃的な戦争の真実でした・・・。
感想
中学生のゆう子と、大学生の直樹。
今回の内容は、戦争のもう一つの真実、です。第一作の「原爆」という被害者側の戦争とは違って、
日本が戦時中、アジアの人たちに何をしていたのか・・・
それを書いたのが、この作品です。これを読むのは、正直とても辛いことでした。
日本人であることをいつもは自覚していないのに、
アウシュビッツの話を読むよりも辛いのは、私が日本人だからだろうと思います。アウシュビッツの話は、どこか第三者的・・・他人事としてとらえて同情するのに対し、
731部隊の話は加害者として責められるような苦しみを味わうのです。
殺された人たちの無念。
人種差別の非道さ。いくら知っても、
いくら謝罪しても、
その人たちは戻ってこないし、
許されることはないことです。でも、それなら、せめて知ったほうがいい。
戦争の悲惨さは、原爆だけじゃなくて、自分たちの罪も含めて
伝えていくべきだと思います。してしまった過去は、どうしても償えるものではないけど、
もう二度としてはいけない、と思うことはできます。読むのはかなり辛いし、
楽しい気分になんてなれませんが、
とても大切なことです。これは物語ですが、
実際に、本当にあったこと・・・だから。出来る限り、たくさんの子供たちに知って欲しいという、
作者の想いが伝わってくるような作品です。
この作品でも、前作の「私のアンネ・フランク」の時のように
「ゆう子」「エリコ」「直樹」「みすず」と、たくさんの人たちの視点で話が展開していきます。
それぞれの立場からの気持ちが書かれているので読みやすいつくりですね。そして、物語はとても重いものですが、
メインで展開していくゆう子のおかげで、どこかに希望を感じられます。どんなにつらい真実でも、逃げないできちんと受け止める強さは、
物語を読む私の心を支えてくれる気がします。