床下の古い時計
K・ピアソン作 足沢良子訳 葛西利行画 金の星社
あらすじ
両親が別居の取り決めをする夏の間、パトリシアは母の妹、ジニーおばさんに預けられて過ごすことになりました。初めて会ういとこたちとは打ち解けられず、一人寂しい思いをしていたある日、家の近くの丸太小屋の床下で、古い金の懐中時計を見つけます。
その懐中時計のねじを何気なく巻いたら、なんとパトリシアは、子供時代のお母さんに遭遇してしまいます。
ジニーおばさんが住んでいるコテージは、昔お母さんも過ごした場所でした。
そして昔のお母さんは、今のパトリシアと同じように、孤独で寂しい少女だったのです。
パトリシアは、昔のお母さん、ルツが好きになります。
二人のお兄さんからは邪魔者扱いされ、とりわけ母親からは嫌われているようなルツ。
パトリシアは、ルツと友達になりたいと強く思いますが、パトリシアにできるのは、ただ眺めることだけ。
過去でのパトリシアは、誰の目にも映らない空気のようなものです。
それでもルツのそばにいたくて、何度もねじを巻いて過去へ出かけるのでした。
過去と現実と、二つの世界を行き来するパトリシア。
けれども、時計が壊れてしまったとき、過去への旅も終わりを告げます。
そしてパトリシアは、現在のお母さんと対峙することになったのです・・・。
感想
懐中時計のねじを巻いたら、過去に飛んでしまう・・・。私にとっては、憧れのシチュエーションです。
時計、というのは時間を司っているもので、中でも懐中時計には、ただの時計じゃない何かがありそうな気がするので。
パトリシアは、内気で口下手、だけど料理が得意な女の子。
両親共に有名人で、きれいなお母さんに似ていないこともコンプレックス。
おまけに、両親は離婚の話し合い中。
出会ったばかりのいとこたちも彼女を嫌がっていて、もしあの懐中時計を見つけられなかったらどこまでも不幸だったでしょう。
もしかしたら、パトリシアを哀れに思って過去へ連れて行ってくれた・・・のかもしれません。
そして過去の時代のお母さん、ルツ。
私も、大人はわかってくれない、と感じることはよくありましたが、ルツはその典型だと思います。
女の子だから、まだ子供と呼ばれる年代だから、そんな理由で周りから虐げられる。
それでも、おとなしくて控えめで、女の子らしい子なら良かったけど、ルツは好奇心旺盛で活動的な、気の強い女の子。
お兄さんたちのすることにすぐ首を突っ込みます。大人にとっては手のかかる、けれども同姓の私にとってはすごく魅力的な女の子ですね。
夏の間だけ過ごすコテージ。
湖で泳いだり、カヌーをこいだり、魚を釣ったり、馬に乗ったり・・・。
何だか読んでいると、それだけですごく開放的な気分になれます。
そして、ルツと過ごすうちに、パトリシアが徐々に変わっていくのがとても嬉しい。
いとこたちとの交流や、過去のジニーおばさんやロッドおじさん(ルツのお兄さん)と現在の・・・という比較を見るのも面白いです。
そして、現在のお母さんとの再会。
過去とは全く別人になってしまったお母さん。
だけど・・・。
“過去の時代でパトリシアは、とてもルツと友達になりたかった。とっても、ルツをなぐさめたかった。今、それができるのだ。”
お母さんの中には、ちゃんとルツがいる。
それは、時計が壊れてしまった後の寂しさを癒してくれる、素敵な真実です。
もう、パトリシアには、過去は必要ないんですね。
前を見つめて生きていこうとする、彼女がとてもかっこいいです。
そして、ルツとも、もっともっと仲良くなれたらいいね、と思います。