リトル・トリー
フォレスト・カーター作 和田穹男訳 めるくまーる
あらすじ
両親を失った少年は、祖父母に育てられることになりました。インディアンの血を引く少年は、インディアンの祖父母と山の中で生活します。
リトル・トリーと名づけられた少年は、インディアンの生き方や、山での生活を
教えられ、幸せに暮らします。
しかし、インディアンは白人たちに差別され、追いやられた種族です。
先祖伝来の山を奪われ、家族をちりぢりにされ、何もかも失わされて生きているのです。
リトル・トリーの生活も、平穏無事ではありませんでした。
町へ降りていくとたくさんの差別を目の当たりにし、
白人たちが山にやってきたこともありました。リトル・トリーと祖父は、禁止されているウイスキー作りで生計を立てているので、
それが見つからないようにするのは命がけです。そうして祖父からは、インディアンとして生きるすべを教わります。
そして祖母からは、心について教わります。
人間には、体を守る心だけじゃなくスピリット・マインドがあるのだ、と。
欲深になって悪いことばかりしているとどんどんスピリット・マインドは小さくなって、
何も理解できない人間になってしまう。スピリット・マインドを鍛えるには、物事をよく理解しようと努めるしかなく、
そうして強く鍛えられたスピリットは、死を恐れなくなるのだと諭されます。
そして山のすべてのものにも、スピリットがあることを、リトル・トリーは知ります。
山で生き、山を愛し、山を守るというのがどういうことかを、祖父母は教えてくれます。
幼いリトル・トリーはすべてを純粋な心で受け止め、強いスピリットを鍛えていくのでした・・・。
感想
まさに、山の息吹が感じられるような物語、という表現がぴったりです。自然があまりにも生き生きと描かれているため、本当にその場所にいるとしか思えないくらいです。
山の四季を、祖父母が誕生から死だと表現しているので、山の一生を絶えず見続けているようです。
とてもリアルなので、圧倒されると同時に、開放感が気持ちいいです。
そして祖父母の考え方は、あまりにも素晴らしいので、何度も繰り返し読んでは感心してしまいます。
どの言葉も的を得ていて、まったくその通りで、深く心に染み入ってきます。
たとえば、いい匂いが大好きな祖母に、香りの強い虫を持っていったリトル・トリー。
そのとき祖母がこう言います。「おまえはとってもいいことをしたんだよ。
なにかいいものを見つけたとき、まずしなくちゃならないのはね、
それをだれでもいいから、出会った人に分けてあげて、いっしょに喜ぶことなの。そうすれば、いいものはどこまでも広がっていく。それが正しい行いってものなんだ」
また、クリスチャンに子牛を買わされ、お金を騙し取られたリトル・トリー。
彼から子牛を買う間も、その後も一言も言わなかった祖父は、子牛が死んだ後に、こう言います。「なあ、リトル・トリー。おまえの好きなようにやらせてみせる。それしかお前に教える方法はねえ。
もしも子牛を買うのをわしがやめさせてたら、おまえはいつまでもそのことをくやしがったはずじゃ。逆に、買えとすすめてたら、子牛が死んだのをわしのせいにしたじゃろう。
おまえは自分でさとっていくしかないんじゃよ」リトル・トリーは、物事の善悪や、大切なことをこの祖父母からたくさん教わるのです。
幸せなことばかりではないけれど、この物語からは幸せが伝わってきます。
そして読むたびに、何か深い気持ちがかけめぐるような、とても不思議なお話です・・・。