生命の樹
江崎雪子作 宮いつき画 ポプラ社
あらすじ
小学五年生の大地と五歳の弟、海は、夏休みにお母さんの実家の静岡に行くことになりました。
といっても、遊びに行くわけではありません。大地と海のお母さんは『重症筋無力症』という重病を患っていて、手術をするために静岡に来たのです。
お父さんはイランに転勤になったので、その間の大地たちの面倒を見てもらうために、お母さんの実家に行くことになったのでした。
大地が二歳のときに発病してから、ずっと大地はお母さんを頑張って支えてきました。
海を産んでから病気が悪化し、今では思うように歩くこともままならなくなってしまったお母さん。そんなお母さんを心配しているのは大地なのに、お母さんは海のことばかりです。
そして大地が心配すると、気が重くなるようなのです・・・。
お母さんが入院した日、庭を手入れしてくれている桜田さんの、孫であるという虹子に初めて会った大地はびっくりします。
赤やオレンジ、黄色、紫と、いろんな色に髪を染めた虹子は中学二年という事ですが、
おばあちゃんから聞いた話では、別に不良でもなんでもないのに、
ある日突然髪を染め、怒られても決してやめようとしないのだそうです。
お母さんの手術が心配で気がふさいでいる大地は、たまたまおじいちゃんが大事にしていたというペルシャじゅうたんを目にします。
そこには「ツリー・オブ・ライフ(生命の樹)」が描かれているのだとか。大地はその言葉に強く惹かれ、じゅうたんに一粒赤い球を見つけ、あれが「生命の実」ではないのだろうかと考えます。
生命の実さえあれば、お母さんの病気が治るかもしれない・・・。
お母さんの手術の日にも、大地はそのじゅうたんを見つめ、祈ります。
このじゅうたんに祈っていると、少しは気が紛れるのです。
けれどももし、この実が本物だったなら・・・。そしてそんな大地の思いが、不思議な世界と、大地を結ぶ鍵になります。
大地がじゅうたんを見つめていると、じゅうたんに描かれた動物たちが動き出し、大地に語りかけてきたのです。動物たちは大地に頼みがあるらしく、それをかなえるためにこっちに来てほしいと言い、
生命の実があればお母さんの病気が治ります、との言葉に、大地の心は傾きます。そのあと、じゅうたんの世界へいざ行こうとした瞬間、虹子と海が連れ立って大地のところへやってきたので、
何と三人一緒にじゅうたんの世界『ピカプの国』に行ってしまったのでした。
ピカプの国は荒れ果てていました。
ゴース・オ・カザール姫という人が作り上げたピカプは、永遠の楽園とも言える幸せな国でしたが、
厄災の魔王が出現してから荒れ果て、見る影もなくなったのです。
大地への頼みとは、厄災の魔王を倒してほしいというものでした。何としてもお母さんを助けたい大地は、ピカプを救って、生命の実を持って帰ることを誓います。
そして大地たちのサポートに動物たちが加わって、旅が始まりました。
しかし、大地の心には海への怒りがあり、どうしても優しくできません。
海を産んだから、お母さんの病気が重くなった。それなのに海はただお母さんに甘えて、お母さんに愛されている。
海なんて生まれなければ良かったんだ・・・。虹子はそんな大地に激しく反発します。
生まれてきちゃいけない子なんてどこにもいないと。虹子のその言葉には、自分の思いがこめられていました。
自分自身がずっと耐えてきたこと、その苦しみ・・・。
旅を共にすることで、やがて大地は海への優しさを取り戻していきます。
そしてまた、虹子とも話をし、仲間の絆が高まります。しかしそんな中で、災厄の魔王の手下の策略が大地たちを襲い、
仲間たちがバラバラになってしまうのでした・・・。
感想
動物だけしかいない、ピカプの国。
唯一の人間だった姫と同じ人間しか魔王を倒せないということで、大地を呼んだのです。大地のお母さんを思う心は真っ直ぐで、本当に一生懸命です。
生命の実を取ろうと思って、頑張って旅を続ける姿には感動しました。そして、海を憎む気持ちもうなずけます。
元気だったころを知っているだけに、海のせいでと思ってしまう気持ち。
しかもそれが、自分よりも可愛がられていると思うとなおさらです。一方の海は、何にも知らないので、いつも無邪気です。
大地の気持ちにも気づかず、お兄ちゃんをただ慕って、甘えて、笑っています。
けれども、その無邪気で誰も疑わないまっさらな心が、旅の中で大きな助けとなるのです。虹子は一番複雑な境遇です。
そしてものすごく傷ついて生きてきたせいで、人にとても優しい女の子です。
彼女の強さはすごいし、彼女の決断も、やっぱりすごい。この物語の主人公は大地だけど、虹子も同じくらいたくさん描かれているので、
私にとってはどちらも主人公、という感じがします。
この物語に出てくる動物たちはみんな、とても温かみがある、ホッとするようなキャラクターたちばかりです。
そんな中で私が一番好きなのは・・・やはり「またいつか会おうね」と約束した彼でしょうね。・・・大好きです。
そしてピカプでの冒険が、大地に・・・というより私たちに、
「信じる気持ち」や、「愛」、「勇気」「優しさ」などを教えてくれます。
読み終わったあとに、とっても胸が温かくなるような物語です・・・。