秘密の花園(上下巻)
バーネット作 吉田勝江訳 深沢紅子画 岩波少年文庫
あらすじ
インドで生まれたメアリは、裕福な家でしたが、両親から愛されない子供でした。そのためインド人の召使いたちに囲まれて育ち、わがままでひねくれて、かわいくなく成長しました。
ところがメアリが九つくらいの頃、両親がコレラで亡くなり、メアリは遠いイギリスへ引き取られることになります。
そこはメアリのおじさんの屋敷でした。おじさんもまた、メアリと同じように、誰も愛さない人でした。
というより、十年ほど前、最愛の妻を亡くしてから心を閉ざしてしまったのです。
メアリはおじさんの屋敷に住むことになりますが、おじさんはメアリに関心はないようで、メアリのことは女中に任せて自分は旅に出てしまいます。
裕福なお屋敷で、メアリの新しい生活が始まりました。
しかし、メアリと接する女中マーサのおかげで、メアリは変わり始めます。
マーサは自分のお母さんや、ディッコンという名前の弟の話をよくしてくれ、メアリもその二人の話を聞くのが好きになります。
マーサのお母さんもディッコンも、誰からも愛される素晴らしい人たちで、とくにディッコンは動物や植物からも愛されるようなのです・・・。
なにもすることがないメアリは、外へ出るようになります。
そしてそこで、庭師のベンと出会い、さらに初めてのお友達を持つことになります。友達のコマドリと遊ぶうちに、メアリはどんどん健康になっていきました。
そして見つけた『秘密の花園』の入り口。
『秘密の花園』とは、もう十年も前に閉められてしまった庭のことでした。
おじさんの妻がそこで大怪我をし、亡くなったために、鍵を埋めてしまった庭です。
けれどもメアリは、どうしてもそこへ行ってみたくてたまりませんでした。
そしてついに、その鍵を見つけるのです。
そのあとメアリはディッコンと出会います。
『秘密の花園』は二人の秘密の場所になり、メアリはそこで毎日、庭いじりを楽しむようになりました。
たくさんの花を植え、いきいきと庭が生き返っていくのを見るのがメアリの幸せだったのです。
そしていつの間にか、誰も好きじゃなかったメアリは、好きな人がたくさん増えたことに気づくのでした。
そしてまた、メアリはもう一人の男の子、コリンと出会います。
コリンは病弱で、自分はすぐに死ぬのだと言い続けます。
けれどもメアリと接するうちに彼も変わり始め、ついには、生きたい、と思うようになります。
それは、メアリとディッコンと『秘密の花園』の魔法のおかげでした・・・。
感想
すっごく面白いです。
ものすごい事件が起こるとか、はらはらどきどきの冒険があるとか、
そういうわけではないのですが、すごく楽しくて、どんどんページをめくり続けてしまう不思議なお話です。
主人公のメアリは最初は全然かわいくありませんが、彼女がどんどん変わっていき、かわいく生き生きとしてくるのがとても嬉しいです。
そしてマーサもマーサのお母さんもディッコンも、すごく魅力的な人たちで、ほんとうに『誰からも好かれる』というのがよくわかるような人たちなのです。
コリンもまた、メアリとそっくりです。変わっていく彼はまるで別人です。
そして人間と同じくらい、この物語の面白さは『秘密の花園』の描写です。
最初死んだように見えた庭が、どんどん生き返っていくのを見るのは
本当に楽しくてワクワクしました。
誰ももう来ない、入れない、秘密の庭で隠れ家のように過ごす、というその状況だけでも特別な感じですが、メアリやコリンがまるで生き返っていくようなのもとても楽しい。
この本を読むと、太陽や空気、空や木、花、大地・・・自然の持つ、素晴らしい魔法の力を感じます。
読み終わると、しみじみと、幸せな気持ちに包まれます。
そして、何だか土いじりがしたくなってしまう・・・そんな物語です。