ハッピーバースデー

 青木和雄作 加藤美紀画  金の星社


あらすじ
十一歳のあすかは、母親の静代にいつも、怒られていました。

あすかが何かしたわけではありません。

ただ、どうしても静代はあすかが気に入らず、兄の直人と比較してはあすかをけなします。

それが続いて、あすかはとうとう声が出なくなりました。


このままではあすかがだめになってしまう。

しかし静代も、父親の祐治も、あすかの問題には目を向けません。

担任の先生から相談された直人は、いなかのおじいちゃんおばあちゃんのところへ、あすかを預けることにします。



おじいちゃん、おばあちゃんのところへ行ったあすかは、初めはまったく口が聞けませんでした。

それでも、そんなあすかに、しゃべれとは一言も言いませんでした。

おじいちゃんもおばあちゃんも、あすかを見守り、あすかの壊れそうな心を優しく包んでくれたのです。

やがてあすかは、再び声が出るようになりました。


帰ったら、あすかは家が引っ越したため、転校することになります。

おじいちゃんの家で、あすかは髪を切り、生まれ変わる決心をしました。

もし辛くなっても、おじいちゃんやおばあちゃんがいる。

それがあすかの支えでした。


そして、新しい生活をスタートさせます。



しかし、環境が変わっても、あすかと静代の関係は変わりません。

静代もずっと、自分自身の苦しみを抱えていたのです。

そしてそれは、ずっと昔から続いているのでした。


やがてあすかは、静代に依存しないで、客観的に母親を見ることができるようになっていきます。

そしてそこから、新しい二人の関係が生まれ始めるのでした・・・。



感想
この物語は、あすかの誕生日から始まり、そして次の年のあすかの誕生日で終わっています。

あすかの苦しみや、闘いの一年間です。


母親からの精神的な虐待を受けたあすかは声をなくし、どこまでも追い詰められていきます。

しかし、母親の静代は直人には優しいわけで、別にすべての子供を憎んでいるわけではありません。

静代もまた、自分の中の感情をどうすることもできずに、苦しんでいたのです。


あすかは、おじいちゃんやおばあちゃんが、そして直人が助けてくれました。

また心が正常に動き出すように、幸せになれるように、見守ってくれました。

でも、表面的には壊れたことがわからない静代は、壊れたまま大人になっていたのです・・・。



転校先でも、あすかは様々なことに出会います。

そして、少しずつ強くなっていきます。


あすかは、母親が絶対の世界から、ようやく立ち上がりました。

そして、気づきます。


自分は、自分なんだ、と。

生きていても、いいんだ、と。


そのことに気づけたあすかは、本当にすごいと思います。



さわやかな読後感が、心地のいい物語です。

ラストのあすかのセリフには、強く胸を打たれました・・・。



HOMEへ  図書室へ  長編目次へ