アルジャーノンに花束を

 ダニエル・キイス作 小尾芙佐訳  早川書房


あらすじ
重度の知的障害を持つチャーリィ・ゴードンは、ストラウス博士とニーマー教授が行う、ある実験の被験者となります。

それは知能を上げるもので、動物実験が成功したので、初めての人間の実験体として選ばれたのです。

この実験で、ずっと長く頭脳が発達した状態のままなのは、ねずみのアルジャーノンだけでした。


手術を終えたチャーリィは、いろいろなパズルやゲームをやらされ、経過報告を書かされます。
その過程で、徐々に頭脳が発達していくのです。

次第に、チャーリィは頭がよくなっていき、
それと同時に、自分の周りの世界が変わっていきます。
それは、嬉しいことではありませんでした。


チャーリィは、ずっと頭がよくなりたいと思っていました。
それは、昔から母親にそう言われていたからです。

頭がよくなれば、他の子と同じようにできれば、かわいがってもらえると、そう思っていたからです。
みんなが自分を好きになってくれると、喜んでくれると思っていたからです。


しかし、実際はそうはなりませんでした。
チャーリィは気がついてしまったのです。

周りの人が、自分をどう思っていたのかを。

そして、優しいと思っていた人たちが、実際はそうでなかったこと、
神だと思っていた博士たちが、ただの人間であったことを知るのです。


そんな中、チャーリィは恋をします。
相手はチャーリィに言葉を教えていた先生で、
彼女は、チャーリィの変化に戸惑いながらも彼を受け入れてくれます。
しかし彼女との恋には、壁が立ちふさがっていました。



たった一人(というか、一匹)、チャーリィが心から信頼できる存在は、ねずみのアルジャーノンだけでした。
アルジャーノンは同じ手術を受け、絶えず実験動物として扱われ、
毎日食事をするために、難しい迷路をクリアさせられていました。

チャーリィは、話はできないけれどアルジャーノンと共に過ごし、とても大切に思っていました。


そんなある日、チャーリィは重大なことに気づきます。

それは、チャーリィの人生を大きく変える出来事でした・・・。



感想
この話は、純粋に「面白い」ということができません。
言おうとすると、胸が詰まってうまく言えないのです。
でも、つまらないなどとは全く思っていません。
ただ、切ない気持ちがこみ上げてくるような、そんな話です・・・。


チャーリィの純粋さを見ると、本当に胸が痛くなります。

みんなのことが大好きで、毎日が幸せだったチャーリィ。

でも、手術をすればもっとみんなと仲良くなって、きっといいことがあると、心から信じていたのです。


知能が高くなったチャーリィは、孤独になります。

今まで一緒にいてくれた人は、チャーリィの変化を受け入れてはくれません。

そして、それ以外の人はみんな、チャーリィを研究対象として見るのです。

もっと他の友達を作れればよかったのかもしれません。

でも、彼は、絶望してしまったのです。


アルジャーノンがもし人間だったら、きっとお互いいろんなことを話せたのでしょう。

そうでなかったことが、かわいそうでなりません。


それでも彼は、手術をしたことを後悔していない、といいます。

たくさん辛い思いをして、苦しんだのに、それでもそう言う彼には涙が止まりません。



このお話がハッピーエンドかどうかは、私にはよくわかりません。

どういう結末が、一番いいのかわからないからです。

ただ、チャーリィの優しさは、ずっと変わらないのだと、最後まで読んでいつも思います。

どんなに彼が変わっても、その変わらない優しさに・・・感動します。


このお話は、経過報告という形で、チャーリィの一人称で書かれています。

そのため、最初の頃は子供のような文章で、かなり読みにくいです。

でもこういう形だからこそ、チャーリィの感情がまっすぐに伝わってきて、余計に深く感動するのだと思います。

本当に、人間の優しさや強さや弱さを、たくさん感じられる作品です・・・。



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