二十四の瞳
壺井榮作 新学社
あらすじ
へんぴな田舎の村の分教場に赴任して来たおなご先生と、
十二人の生徒たちの交流を描いた物語。
昭和の初め頃、おなご先生こと大石先生は、十二人の生徒と初めて出会いました。
岡田磯吉(ソンキ)、竹下竹一、徳田吉次(キッチン)、森岡正(タンコ)、相沢仁太、
川本松江(マッちゃん)、西口ミサ子(ミィさん)、香川マスノ(マァちゃん)
木下富士子、山石早苗、加部小ツル、片桐コトエ・・・。彼らのまっすぐな瞳を見つめ返した大石先生は、心に刻みます。
“この瞳を、どうしてにごしてよいものか!”・・・。
若くて元気で明るい大石先生は、たちまち生徒たちの人気を集めます。
岬から通ってくる子供たちの中には、裕福な子も貧しい子もいましたが、
みんな子供らしく純粋な瞳を持っていて、
大石先生も十二人それぞれと真っ直ぐに向き合っていました。
しかしある日の怪我がもとで、先生と生徒たちは離れ離れになってしまいました。
どうしても先生に会いたい子供たちは、片道八キロもの道のりを必死に歩いて先生に会いに行きます。
無事に会えたときは大騒ぎでした。
そのあと先生は本校へ行くことになり、
数年後、再会した大石先生と生徒たち。先生も結婚し、生徒たちもそれぞれの事情を抱えながら過ごしていました。
やがて日本は戦争に巻き込まれていきます・・・。
男の子たちは戦場へ、女の子たちは自分の道へ、
そして先生も、夫や子供たちと、戦争を生き抜いていかなければなりませんでした。
そしていつしか戦争が終わり、かつての生徒たちが歓迎会を開いてくれます。
大石先生と生徒はそこでまた、再会を喜び合うのでした・・・。
感想
二十四の瞳、とは、十二人の二つの目を合わせた瞳の数のことです。
当たり前だけど、まっすぐなそのタイトルに、すごく惹かれます。
裕福な子、貧しい家の子、活発な子、おとなしい子・・・
十二人の事情はそれぞれで、貧しいがゆえに、自分の将来をあきらめている子もいます。そして戦争という波に飲まれ、兵隊に憧れる男の子たち・・・。
何もできずに、生徒たちを見つめ続ける大石先生の切なさ。
先生自身もまた、戦争で失ったものはとても大きく、けっして元の幸せには戻れません。
時代の中で翻弄されながら「生きる」ということを、
静かな文章を通して、強く訴えてくるような物語です。私の好きなシーンは、子供たちが先生に会いたくて八キロの道のりを必死に歩くところと、
歓迎会で、そのときの写真を眺めるところです。
戦場で目を失った生徒が、その写真だけは見えると言います。
そして写真をそっと指でなぞって、一人一人名前を呼び、
その指差す場所にはちゃんとその人が写っているのです・・・。十二人が今ここで笑っているかのように・・・何も変わらないかのように。
いつもこのシーンでは泣いてしまいます。
胸がいっぱいになって、涙があふれてきます。読み終わった後、切なさがいつまでも残るような、そんなお話です・・・。