タイガーと呼ばれた子(シリーズ第二巻)

 トリイ・ヘイデン作 入江真佐子訳 大竹茂夫画  早川書房


あらすじ
精神異常の子供たちを教える先生だった、トリイ・ヘイデンは、その中でシーラという子供と出会います。

彼女はトリイにたくさんのものをもたらしますが、その後の消息がわからなくなってしまいました。


それから七年。六歳だったシーラがあと少しで十四になる頃、トリイは彼女と再会します。

再会したシーラは、あの頃とは別人でした。


何よりもトリイをがっかりさせたのは、シーラが当時のことをほとんど何も覚えていない、ということです。



その頃、トリイはしばらく教職を離れていましたが、職場でサマー・プロジェクトを行うことにしました。

それは、数人の精神異常の子供たちと過ごし、何らかの改善があるかどうかを見極めるプロジェクトです。

そしてその助手として、シーラを思いつきます。

トリイは、昔の彼女の面影を求め、変わってしまったシーラと再びわかりあいたいと思ったのです。



シーラはこのサマー・プロジェクトの中で、特別にアレホという少年と仲良くなります。

アレホは捨て子で、ゴミ箱の中にいたのを発見されて、施設で育った男の子です。

その後、今の両親に引き取られたのですが、アレホがただの乱暴で協調性のない子供、ではなく、知能が低い障害児であった場合、施設に送り返されるかもしれない状況でした。


シーラはアレホに自分を重ねて、深く同情します。

そして、トリイに、絶対送り返させないでと頼みます。


それから、もし送り返すなら、なぜ幸せを与えたのか、と言い出します。

そしてそれは、トリイが自分にしたことも同じだと。


トリイは、世界を突然夢いっぱいのものに変えておいて、それはただの幻想だったというように、勝手にいなくなったのだと彼女は言います。

シーラは、トリイのクラスにいた頃と、その後の少しの時間は幸せだったけれど、
その後、不幸のどん底の生活をしていたのでした。



あの時彼女にしたことは間違いだったのかと、トリイは悩みます。


ところが、プロジェクトが終わりに差し掛かったある日、シーラはアレホを連れていなくなってしまいました。


シーラは、シーラ自身が、いまだ暗闇から抜け出すことのできない子供でした。


彼女を取り巻く環境は、自分が想像するよりも、もっともっと苦しいものだったと、その後トリイは知ることになります・・・。



感想
これは、「シーラという子」の続編です。

でも冒頭に、シーラと過ごした日々をまとめて書いてあるため、前作を読んでいなくても状況がわかるようになっています。(といっても、第一作から読んだほうが感動しますが)


希望に満ち溢れるような終わりだった、「シーラという子」。

だけど、現実はそこまでうまくできてはいませんでした。


あのままシーラが、幸せに成長していてほしい、というトリイの願いは打ち砕かれます。

シーラの心は、病んだままでした。



トリイは、今度こそ根本的解決を目指します。

あの頃よりも扱いにくくなっているシーラを、何とか幸せにしてあげたいと考えます。

シーラはそれを拒みますが、それでも、シーラにとってはたった一人、トリイだけが自分を気にしてくれる存在でした。



何度も絶望に打ちひしがれながら、それでも決してあきらめようとしないトリイは、私にとって、本当に希望の象徴です。

彼女の深い愛は、まさに理想的な「先生」であり、「母親」であり、絶望を打ち砕く力です。


「きっとトリイなら、シーラを救える」

そう私は何度も繰り返し、信じました。

おそらくシーラも、心の底ではそれを待っていたと思います。



トリイの努力は、やがてシーラの心を変えていきますが・・・

そこには、シーラの大きな成長がありました。


彼女が絶えず苦しめられ続けてきたトラウマから開放されたとき・・・彼女は本当の意味で、自由へと歩き始められたのです。



トリイにも、そしてシーラにも、強く感動する物語です。

人の想いの強さを、実感しました・・・。



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