シーラという子(シリーズ第一巻)

 トリイ・L・ヘイデン作 入江真佐子訳 大竹茂夫画  早川書房


あらすじ
これは実話で、作者トリイ・ヘイデンが子供たちとの日常を書いたものです。


トリイは、精神に障害を持った子供たちを教えていました。

あるとき、そのクラスに、シーラという子がやってきます。

六歳の彼女は、三歳の少年を連れ出し木に縛りつけ火をつけたのです。

そのため周りの人たちは彼女を恐れ、結局トリイのクラスに入れられたのです。


トリイのクラスには、すでに生徒が八人いました。

神経の病気から、非常に乱暴なピーター、二度も自殺未遂をしたタイラー、

小児自閉症のマックスとフレディ。身体、性的虐待の犠牲者セーラ。

小児分裂病のスザンナ。いくつかの物体、物質を怖がるウィリアム。

目の見えない、乱暴なギレアモー。

そして、高校を卒業していない、季節労働者の失業者アントンと、

中学生の女の子ウィットニーが助手についていました。


シーラは、ただでさえ敏感で、すぐにまとまらなくなるトリイの教え子たちの中に飛び込んできた、爆弾のような存在でした。

トリイは必死で彼女をクラスに溶け込ませようと、彼女を理解しようと努力します。


その努力の甲斐があって、少しずつシーラはクラスに慣れていき、
やがてトリイは、彼女が本当はものすごく高い知能を持っていることに気づきます。

そして、それゆえに非常に危険な存在だということも・・・。


なぜなら、「どうしてここにいるのか」ということや、

「相手を傷つけるにはどうしたらいいか」ということ、

「自分の未来に何の展望もない」ということを、

シーラ自身が理解していたからです。


その後、シーラは少しずつ自分の環境について語り始めます。

お母さんが幼い弟ジミーを連れて、どこかへ行ってしまったこと。

だから、お母さんは自分のことは好きじゃないんだ、と・・・。


今まで愛されたことのない子供と、トリイの闘いは続きます。

それは、いつ終わるとも知れない、永遠の追いかけっこのようなものです。


けれども、次第にシーラはトリイに心を開いていきます。

そしてその中で、トリイは、シーラを取り巻く環境とも闘うことになるのでした。



感想
この本を買ったきっかけは、大きな書店で、「分厚い本が読みたいなぁ」と思って見回したとき、奇妙な表紙が目に飛び込んできたのが最初です。

私は文学少女ではないので、分厚い本、といっても、読みやすくてわかりやすい本が好きです。

なんとなく数ページをぱらぱらと見て、購入したのがこの本でした。


「精神異常の子供たちを教えている先生と、その子供たちとの交流」というのは、ものすごく重い内容です。

実際、子供たちは「正常」になる見込みはなく(中にはそういう子もいますが)、彼らの環境もひどいもので、未来に希望が持てるようなものではありません。



それでも、このお話を読んでいると、「面白い」とか、「楽しい」とか、そういう感想が自然と湧き上がってきたりします。


それは、作者トリイ・ヘイデンの愛情が、そうみせてくれているからです。


残酷な現実や、絶望的な状況が省かれているわけではありません。

それを見ていると、とても辛くなってきます。

だけど、トリイが子供たちを「愛している」のが伝わるから、
一生懸命、様々なものに立ち向かう彼女を素晴らしいと思うから、
このお話は「面白い」ものになっているのだと思います。



トリイのクラスに来た子供たちは、みんな楽しそうです。

来た当初は、どの子ももっとひどい状態でした。


もちろん、それが緩和された子ばかりではありません。

だけど、トリイの愛情に包まれて、トリイの授業をたくさん受けているうちに、みんな何かが変わったのです。


少なくとも、トリイのクラスは彼らにとって「家族」のようなものでした。



トリイの生徒には珍しい、知能の高い子供シーラ。

シーラのおかれた環境も、とてもひどいものでした。

トリイは、クラスの中での彼女にしてあげられることはたくさんあっても、
彼女の生活まで変える力はありません。

その葛藤に苦しめられながらも、シーラを何とか救おうとするトリイの姿に感動します。



幼いシーラがお気に入りの本は、「星の王子さま」(サン・テグジュペリ)です。

シーラはトリイに、何度も繰り返し、この本を読んでとせがみます。


この物語と併用して、「星の王子さま」を読むと、

より一層感情移入できるような気がします。



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