無印OL物語

群ようこ作  角川文庫


あらすじ

短編小説なので、いくつものお話がこの中に詰まっています。

OLの日常生活をユーモラスに描いたショートストーリー、という感じ。

非常に読みやすくて、すらすらと読めてしまいます。
大笑いはしないけど、思わず苦笑いやクスリ笑いが浮かんでくるような、面白いお話ばかりです。


その中から、一つ抜書き。(途中までですが、文体をお楽しみください)



『ご無理ごもっとも』

私が予備校に勤めているというと、友人たちは、

「いいわねえ、カズコは。若い男の子や知的なおじさま方に囲まれて。
うちの会社なんか、アホな若い男と脂ぎったフケ症のおっさんばっかりで嫌になっちゃうわ」

とうらやましがる。


たしかに若い男の子は、かわいいのそうじゃないのとりまぜて何百人といるし、「いひひひ」とスケベな笑い方をしながらお尻を触る、ふとどきなおじさんもいない。
みんな勉学に燃えている知的な職場というイメージがある。


このうえなく安全で安心な職場である。
よほどのことがない限り波風は立たない。立ちようがないのである。



朝八時までに学校に行って、まず机の上を拭く。

電話機が汚れていると嫌な顔をする神経質なおじさま先生もいるので、ダイヤルの穴に雑巾をつっこんでグリグリする。

よじれているコードもきちんと直し、机の周囲にゴミ、チリの類が落ちていないように気をつける。


そして先生が来るとそのつどお茶をいれる。

みんな一緒に来てくれればお茶くみも楽なのに、てんでんバラバラに来るから、ヘタをするとお茶をいれたりひっこめたりしているうちに、軽く一時間たってしまうこともある。



会社に勤めている友人の話だと、気に食わない上司には、お茶っ葉に消しゴムのかすをブレンドしたものでお茶を入れたり、上司が会社に来て履きかえるイボイボつき健康サンダルの上に、さりげなく画鋲を転がしておいたりしてウサ晴らしをしているらしい。


しかし私には、そんなことはとうてい許されないのだ。


許されないといっても、ふつうの会社の上司とOLみたいに密接な関係ができないから、恨むとかいう出来事も起こらない。表面上のおつき合いがただ延々と続いているだけなのだ。



予備校にとっては、先生も学生も両方ともお客様だから、ひねくれて考えると毎日他人にへーこらして過ごしているようだともいえる。

先生には敬語で接しなければいけないし、生徒たちには優しいお姉さんとして接しなければいけない。


たまにうずうずとお腹のなかにたまってくるものがあって、大声でわめき散らしたくなるときもあるが、じっと耐えている。

先生受けするために着ている、花柄プリントのワンピースの陰に、いろいろな苦労があるのだ。



お昼が近づけば先生ひとりひとりに昼御飯の希望を聞いて、しかるべきところに電話する。それも十人が十人、みんな、

「長寿庵のきつねソバ」

とかいってくれれば楽チンなのに、


「私はキッチン東洋のB定食」

「南北屋のきじ弁当」

「とんとん屋のカツ丼」

「まるみ屋の鴨なんばん」

などとメチャクチャなことをいうので、十回違う店に電話しなければいけない。


一発で注文できればいいけど、話し中だったりしたらそれをメモっておいて電話をかけ直す。その間にも、

「お茶をくれませんか」

と先生から声がかかる。そうこうしているうちに電話するのが遅れてしまう。


先に食事が届いた先生から食事をしてもらうのだが、なかには他人が食べているのを見ると、我慢できなくなる性格の先生もいて、ふっと席を立って煙草をふかしながら窓の外の景色を見ていたりする。

平静を装いながらも、

「遅くなりましたあ、毎度おー」

という声がするたびに、パッとうしろをふりかえる。

それが自分の注文したものじゃないとがっかりした顔をしつつ、また景色を眺めはじめる。


そしてとうとう我慢できなくなると、

「私はあの先生より先に注文したのに、まだ鴨なんばんが来ない」

といって私のことを責めるのだ。


まるみ屋に電話がかかりにくかったのも、鴨なんばんが遅いのも私のせいではない。

それなのに、私のあとにくっついてぷりぷり怒っている。


きっと会社だったら、

「はいはい、わかりました。電話してみ、ま、す」

と、うるさそうに嫌味のひとつでもいえるのだろうが、私の場合、
他の先生にたのまれた百五十枚のプリントのコピーを文句もいわずにおとなしくやりつつ、先生のご機嫌をそこねないように、

「鴨なんばんはいかに」

と、まるみ屋にチェックを入れなければならない。
先生のおっしゃることはすべて、ご無理ごもっともなのである。・・・。




感想


淡々としていて、客観的で、ときどき言い回しが笑える。

そんな印象の文体に、ほとんどひとめぼれ?・・・というか、ちょっと見ボレしてしまった私は、この本を買いました。

みんな短い話なのですが、主人公のキャラクターが非常に立っているため、物語自体はありふれているのに、とても面白いです。


読みやすく、薄い本なので、携帯に便利です。

電車の中とか、ちょっとした休憩時間とかに、頭を休める感じで読むといいかもしれません。


ちなみに、これは「無印シリーズ」として、続きがあります。

一個一個の話は単独で、読みきりなので、どのシリーズの本から読んでもわからなくなることは全くありません。



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