贈りもの

 ダニエル・スティール作 天馬龍行  アカデミー出版


あらすじ
ジョンとエリザベス、息子のトミーとアニー。
一家四人は、幸せでした。

望んだものは努力すれば全て手に入る、というのがジョンの考え方で、その通りに努力を重ねて、夢をかなえてきました。
妻のエリザベスも向学心に燃える女性で、学校の先生をしています。

息子のトミーも成績がよく、真面目で明るい性格で、何の問題もありません。
そして、アニー。彼女は天使のように愛らしく、家族みんなの宝物でした。


そんな幸せな一家を、ある日不幸が襲います。
それは、まだ五歳になったばかりのアニーの突然の死でした・・・。

そのあと、家族の心はバラバラになり、夢も希望もなくなります。
全ては突然の悪夢のような出来事でした・・・。


一方、そこから遠く離れた場所に、マリーベスという少女が住んでいました。
父親は厳格な性格で、母親はそんな父親にさからうことのない従順な女性。

そんな中で、マリーベスは大学へ行きたいという夢を抱いていましたが、父親は、
女は学習する必要はない、という考えだったのでよく反発していました。

そしてあるパーティーに行った夜、マリーベスの人生が大きく変化してしまいます。
会ったばかりの、学校の上級生ポールと初体験をしてしまい、
しかもその後で彼女は振られ、あげく妊娠してしまったのです・・・。

彼女は決して軽い気持ちでそうなったつもりはありませんが、自分のそのときの行動を、
後々まで深く後悔することになったのでした。


そして中絶の危険性を考えた末、マリーベスは修道院で子供を生み、里子に出すという選択を選びます。
父親からは罵倒され、産むまで絶対に戻ってくるな、連絡もするなと言い渡されました。
唯一、仲の良かった妹のノエルには、嘘をついて家を出ました。

しかし、修道院での生活が耐え切れなかったマリーベスは、
そこから飛び出し、子供を産むまで自力で生活しようと心に決めます。


そしてマリーベスがアルバイト先に決めたレストランで、彼女にとって再び大きな転機が訪れます。
それは、トミーと知り合ったことでした。

出会ってすぐ、トミーはマリーベスに惹かれます。
マリーベスにとっても、トミーは信頼できる男の子でした。
二人の仲は徐々に近づいていき・・・・・・。



感想
最後まで、どうなっていくのかわからないという、ドキドキハラハラする物語でした。

単純に言えば、マリーベスとトミーのラブストーリーですが、
その描かれ方が、ものすごく・・・なんというか、『深い』感じです。


トミーの家族は、アニーの死によってバラバラになっています。
マリーベスと出会ったことで、トミーの心は少しずつ救われていきますが、
ジョンやエリザベスもまた、彼女と出会うことで、大きく変わっていきます。


逆に、マリーベスもトミーと知り合ったことで、人生が大きく変わります。
お互い影響しあって、それが周りを巻き込んで、そして最終的に・・・・・・・。
その流れに引き寄せられて、一気に読んでしまいました。


マリーベスは決して遊んでいる女の子ではなく、とても真面目で向学心のある、意志の強いしっかりした女の子です。
そんな彼女が、激情に流されてあのようなことをしてしまったことは、汚点ともいえることだったでしょう。

けれども、そうではなかったのです。


マリーベスは、トミーに向けて、アニーのことをこう言います。

「ほかの人たちに何かを教えるために、この世に生まれてくる人たちっていると思うの。
わたしたちに贈りものをしてくれたり、教訓を与えてくれたり、
わたしたちを祝福してくれたりするために生まれてくる人たち・・・・・・

あなたの妹さんだって、きっとあなたに何かを教えていったはずだわ・・・・・・
愛とか、人に尽くすこととか・・・・・・それがあなたへの贈りものだったのよ。

教えるためにこの世に来て、役目が終わったから去って行ったとも考えられるわ。
それ以上、この世にとどまっている必要がなかったのかもしれないわね。

きっと特別な魂を持っていて、妹さんはどこへでも自由に動けるのよ・・・・・・
妹さんからの贈りものは、あなたの中でいつまでも生き続けるわ」


それはアニーのことだけではなく、
長い目で見れば、マリーベスの生まれていない子供についても言えることだったのです。


あやまちではなく、幸せのために存在する、大切な贈りもの。

マリーベスとトミーの一家は、出会えたことが奇跡で、とても幸福なことでした。
それをもたらしたのは、マリーベスの赤ちゃんのおかげだったのです・・・。


上級生ポールはとても無責任だと思いますが、マリーベスとトミーが出会えたのは彼のおかげでもあります。
こうしてみると、すべてが「そのとき」はわからないけど、
大きな流れとして全体を見たときに、「これでよかったんだ」と思えるような気がしてくるから不思議です・・・。

そんな人生と、人と人との結びつきを感じさせる、素晴らしい奇跡の物語です。



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