モモ

 ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳  岩波書店


あらすじ
裕福でない人たちが住む地域の、さびれた円形劇場の廃墟に、あるとき小さい女の子が住み着きます。
彼女の名前はモモ。

彼女は施設から逃げ出してきた女の子で、近所の人たちはみんなでモモの面倒を見てあげることにします。


モモは他に何も持っていないただの小さな女の子ですが、たったひとつだけ、すばらしい才能がありました。

それは、人の話を聞くことです。

近所の人たちは、何か困ったことがあるとモモに話を聞いてもらいます。

すると悩みは解決し、元気になれるのです。


もちろん、子供たちにとってもモモが来てから遊びが楽しくなりました。

モモと近所の人たちは、お互いを必要として、とても幸せに暮らしていたのです。


ところがあるときから、モモたちの知らないところで、おそろしい出来事が広がっていました。

それは時間どろぼう、と呼ぶのがふさわしい、灰色の人間たちです。

本当の姿は人間ではなく、人間が作り出したものなのですが、人間を支配し、自分たちの意のままに操ってしまう存在です。


モモの仲間たちも、奴らによって時間を奪われていきます。

それも、気がつかない間に。


けれども、モモだけは平気でした。

それは、モモのすばらしい才能によって、灰色の男たちはモモに手が出せなくなってしまったからです。

そのためモモは一人で、時間どろぼうから、大切な人たちの時間を取り返すために立ち上がるのです。



感想
モモって、本当にすばらしい女の子です。

私の大好きな、モモの資質をあらわす文面があります。



“モモに話を聞いてもらっていると、どうしてよいかわからずに思いまよっていた人は、きゅうにじぶんの意思がはっきりしてきます。
ひっこみ思案の人には、きゅうに目のまえがひらけ、勇気が出てきます。
不幸な人、なやみのある人には、希望とあかるさがわいてきます。

たとえば、こう考えている人がいたとします。

おれの人生は失敗で、なんの意味もない、おれはなん千万もの人間の中のケチな一人で、死んだところでこわれたつぼとおんなじだ、べつのつぼがすぐにおれの場所をふさぐだけさ、生きていようと死んでしまおうと、どうってちがいはありゃしない。

この人がモモのところに出かけていって、その考えをうちあけたとします。
するとしゃべっているうちに、不思議なことにじぶんがまちがっていたことがわかってくるのです。

いや、おれはおれなんだ、世界じゅうの人間の中で、おれという人間はひとりしかいない、だからおれはおれなりに、この世の中でたいせつな存在なんだ。

こういうふうにモモは人の話が聞けたのです!”



モモはまるで、心を見通すことができる鏡みたいですね。

何も言わず、ただ話を聞くだけ。

それが、たぶん一番大切で必要なことなんだな、と思います。


そして、灰色の男たち・・・。

モモの才能は話を聞くことですが、時間がなければ話ができません。

まさにその方法で、男たちはモモから、仲間を奪っていくのです。


時間というのは、なんなのか。

時間というものの大切さ。

『モモ』を読んでいると、当たり前にある、時間がすごく特別なものに思えてきます。


モモの強い味方、時間を司るマイスター・ホラがモモに見せてくれた、時間の花が私はとても好きです。


次々に現れる、たとえようもなく美しい花。

光の柱から流れる壮大なメロディー。

その場所すべてが人間の時間なのだそうです。


生きるって、時間って、すばらしい。

そう思える、とても素敵なシーンです。


そして・・・、『モモ』を読み終わると、体中に光が満ち溢れるような、暖かく優しい気持ちになります。

それはまるで、モモが私の時間まで取り戻してくれたような・・・

そんな満ち足りた思いでいっぱいになるのです。



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