エミリーへの手紙

 キャムロン・ライト作 小田島則子・小田島恒志訳  NHK出版


あらすじ
ローラは夫のボブと、離婚の話し合いの真っ最中でした。
ローラ自身は別れたくなどないけれど、ボブから切り出されたのです。
七歳の一人娘、エミリーにはまだ何も言っていません。
最後の最後まで、希望をつなぎとめたかったからです。

ボブには、アルツハイマーになった父親、ハリーがいました。
ローラは毎週エミリーを連れてハリーのところに通っていて、エミリーとハリーはとても仲がいいのです。
逆に、ボブとハリーの仲はまったくよくありませんでした。
ボブはハリーを嫌っているようで、ほとんど家に寄り付きません。

ハリーの病状は悪化し、ホームヘルパーが世話をしていましたが、そろそろ老人ホームに入れたほうがいい、と判断したローラとボブは、ハリーのためにいい老人ホームを探します。
ところが、ハリーはそれを知ると激怒し、ボブをののしります。
そしてその後、すぐに亡くなります。

父親が死んだというのに、ボブはまったく悲しくありませんでした。
ローラと離婚の話し合い中に、昔の知り合いの女性、シンシアと再会したりして、新しい人生を考えつつありました。

しかしローラは、ハリーのことも好きだったし、それにハリーの死にどうしても納得がいかないのです。
ハリーは自然死だということだったけど、老人ホームの拒否をしてすぐに死ぬなんて、そんなことがあるのだろうか?

そしてローラは、ハリーがアルツハイマーではなかった可能性に気づきます。
彼の病気はもっと別のものだったのではないかと。
それとともに、ハリーの遺品を整理していたときに、ハリーが作った本を発見します。
本は三冊あり、一冊はエミリーにもらい、一冊は別居中のボブ、もう一冊は、ボブの姉ミッシェルに渡すことになりました。

そしてその本を、エミリーが読んで、とせがんだとき、その本の謎が解け始めたのです。

本には、不思議なパスワードが書かれていて、パソコンに入力すると、ハリーの言葉があふれ出てきました・・・。


それは、ハリーからエミリーへあてた手紙でした。
ハリーは大切なエミリーに、どうしても言っておきたいことを、こういう形で残したのです。
しかも、本には暗号めいた詩で書いて、それを解いたらパソコンで手紙が読めるという 形式を取って。
ハリーにそんな才能があったことに、ローラもボブも驚きます。

それからは、本のパスワードを解くことが日課となります。
エミリーが楽しみにしているのもそうだけれど、何より、ローラもボブも、(のちに本が届いたミッシェルも)ハリーの暗号にわくわくしていたのです。

ハリーがエミリーにあてた手紙は、いろいろでした。
ハリーと、ハリーの妻キャサリンとの出会いや結婚式のこと。
失敗談や体験談から、エミリーに優しく人生をさとす言葉。
「お金」よりも大切なもの・・・。

ハリーの手紙は、家族全員を大きな愛で包み込んでくれたのです・・・。



感想
ものすごく感動しました。
ハリーの手紙の数々は、何回読んでも素晴らしいです。
あまりにもたくさんの「名言」が書いてあるので、そしてそれは、物語の中でより輝いて見えるので抜書きはしませんが、とっても優しさと愛にあふれたものばかりです・・・。

この物語は、家族の絆を描いたものです。
そして、人間の弱さとか、苦しみとか、そういったものも伝わってきます。
ハリーと息子のボブの関係もまた、大きな溝でした。
けれども、手紙の中でハリーは、ボブに向けての言葉を残しています。

ラストまで私は感動の連続でした。
温かい感動が胸に広がってくるような、そんな物語です。



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