戦場のピアニスト

 ウワディスワフ・シュピルマン作 佐藤泰一訳  春秋社


あらすじ
ポーランドのユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンは第二次世界大戦を生き抜きました。
収容所へ行かず、ゲットー(ユダヤ人居住地区)の中で。
そこで多くの仲間たちに助けられながら、幾度も選別を切り抜け、潜伏生活を送りました。
ある日ゲットーでついにユダヤ人の暴動が起こったとき、シュピルマンはただ一人の生存するユダヤ人となったのです・・。



感想
これは作者の体験談、実話です。
一人称「私」で書かれていて、淡々としているので、読みやすい文体です。
しかしその内容はとても読みやすい、というものではありませんでした。

戦争が始まる前のポーランドの様子、始まって次第にドイツに苦しめられる様子、
ゲットーに蔓延する飢えと病気・・
ついには収容所へ送られる人々の地獄の日々・・・・
読んでいると胸が苦しくなるようです。

ドイツ兵は、ユダヤ人を同じ人間として認めていません。
何かのゲームのように射殺し、ユダヤ人の貴重品を強奪します。

衝撃的な描写の中に、割り当てられた仕事にほんの少し遅刻した少年を射殺したものがありました。
そのドイツ兵は、怒りも苛立ちも何もなく、ごく当たり前の日常の動作のように、少年を射殺したのです。

そのような悪夢のような場所に、シュピルマンはいました。
何度も自殺を考え、しかしギリギリのところで何とか生き抜きました。

彼の心を守っていたのは、音楽という存在だったに違いありません。
ピアニストである彼は、潜伏生活で飢えに苦しみながら、楽譜をそらんじていました。
肉体労働をさせられていたときも、指のことを気遣っていました。
心のよりどころ、生きがいがあったからこそ、彼は生きる勇気を捨てなかったのだと思います。

そんなシュピルマンを助けてくれた人々・・・。
彼らは命がけでシュピルマンを助けました。
それは本当に素晴らしいことです。
そんなひとの中に、敵であるドイツ軍将校もいました。

まともな神経を持っていたドイツ軍将校の苦悩。
それがラストに、彼の日記として載っていました。
狂った戦争の犠牲者は、殺された側、虐げられた側にだけあるのではないのだと痛感しました。



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