レナの約束

 レナ・K・グリッセン ヘザー・D・マカダム作 古屋美登里訳  清流出版


あらすじ
レナと妹のダンカは、戦争を絶滅収容所で生き抜いた、数少ないユダヤ人の女性です。
レナは三年以上も、アウシュビッツとビルケナウ収容所にいたのです。
その彼女の体験談を、自伝風にまとめたのが、この本です。

レナはポーランドのティリチュで、正統派ユダヤ人の娘として生まれました。
上に十四歳違いの姉、ゾシアと、十六歳違いの姉、ゲルトルード、
二つ年下の妹、ダンカがいました。
レナは異教徒のアンジュジェイと恋を育みますが、両親から反対されて、
会うことができなくなります。

やがて、ドイツ人から逃れるために、レナとダンカは姉、ゾシアのところへ行くことになりました。
そして、1942年、レナは出頭命令に基づき、収容所へ行くことを決意します。
たった一人で。
レナは、そこは人道的に働かされるだけの場所だと思っていたのです。

しかし、アウシュビッツ収容所は、想像していたような場所ではありませんでした。
家畜用の車に乗せられ、ぎゅうぎゅう詰めで飲まず食わずで何日も運ばれて、
何人もが死に、収容所へついたとき、すぐに選別されました。
弱っていた人たちは、家畜用の車に乱暴に乗せられて、どこかに運ばれました。
レナたちのグループは、持っていた数少ない荷物を取り上げられ、裸にされました。
そして、消毒された後、髪の毛や陰毛を剃られました。
そのあと下着もつけずに、殺された兵士の着ていた服を渡されました。
腕に針を刺され、番号が刺青されました。
食事もほとんどなく、狭い部屋に木の板を貼り付けたようなベッドが割り当てられました。
何もかもが狂った世界の悪夢のようです。

レナは、呆然としながらも、収容所に暮らす男性収容者とメモを交わす術を見つけます。
彼らの協力で、少しでも何か物が手に入るのです。
そうこうして数日が過ぎたとき、レナはダンカと再会します。

ダンカも自分で出頭してきたのでした。
信頼する姉がいるところに行きたかったから、それで来たのです。
この瞬間から、レナはどうしても生きなければ、生きて、ダンカと一緒に両親の元へと帰らなければと考えます。

そして、アウシュビッツが男性専用になったため、レナたちはビルケナウに移されます。
ビルケナウは不潔度がさらにひどいところでした。
そこでレナたちは、後から増える収容者たちのための、宿舎を作る労働に借り出されることになります。

何度も選り分けの危機をくぐり抜け、知り合いの人たちとも何人か再会を果たします。
できる限りの協力をしながら、それでも何度も打ちのめされます。
この頃にはもう、ガス室の存在も知っていました。
何十人、何百人を一気に殺すガス室。
けれども敵は、ガス室だけではありません。

労働の際に、殺人鬼と化したドイツ人に、何の意味も無く殺されたり、
生体実験の被験者に選ばれることだってありました。
そして、衛生上の問題から、様々な病気に感染したりもします。

そんな地獄の日々の中、レナはダンカを守りながら、人間らしさを失わずに、
何とか生き抜こうと努力するのです。
心の中ではいつも、お母さんが支えてくれていました。

そしてまた、こんな地獄の場所でも、レナの魅力は隠すことができませんでした。
レナは一人の男性と恋に落ちます・・・。



感想
この本は、私のすごくお気に入りの一冊です。
戦争中のユダヤ人の話、もちろん実話ということで、とても重い内容には違いありません。

けれども、収容所での非人道的な扱いにもかかわらず、自分らしさを失わないレナの強さに、希望を感じます。
レナは、自分のことだけを考えたりは決してしません。
ダンカのことを一番に考えるだけではなく、他の人たちに対しても、いつも思いやりのある態度で接しています。

それは、母親がそういう人であったからかもしれません。
レナは両親を大切に思い、だからこそ、初恋のアンジュジェイさえも受け入れられなかったのです。
そのレナの想いはとても切なく、また悲しくなりました。
けれどもその気持ちが、彼女の心を収容所で救っていたのも、事実です。

そしてまた、レナだけでなく、妹のダンカも優しい人です。
二人とも、心を壊さずに収容所で生きているのは、奇跡としかいいようがありません。
しかしそのおかげで、読んでいると希望がどんどんわいてきて、やさしい気持ちでいっぱいになるようでした。

絶滅収容所は、体だけでなく、心も引き裂かれるような場所でした。
けれどもそんな中でも、たくましく生きていた人がたくさんいます。
レナやダンカは友達をつくり、協力者を得て、また、恋もします。
「生きている限り、希望はあるんだ」と思えるような出来事です。

レナやダンカのように生き残った人は、とても少ないです。
もし誰もいなかったら、収容所生活がどんなにひどいところか誰も知ることはできませんでした。
そういう意味でも、彼女たちは希望でした。

けれども、レナは苦しみを伝えるためだけに生き残ったわけではありません。
どんな状況でも、どんな目に合わされても、決して消えることのない、殺されることのない
強い人間の精神力を、レナは証明したのです。

私が一番感動しているのは、「レナが生き残った」ことです。
レナがレナのままで、地獄を生き抜いた事。
読むたびに、その素晴らしさに強く感動します。
本当にすごい、奇跡の物語だと思います。



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