パーフェクト・ストーム

 セバスチャン・ユンガー作 佐宗鈴夫訳  集英社


あらすじ
1991年10月、大西洋で、百年に一度と言われる大嵐が発生し
多くの船が沈没の危機にさらされました。
その中で、一隻の漁船が消息を絶ち、六人の漁船員が行方不明になりました。

船が沈没するときの様子はどんなだったか、
どのようにして嵐に飲み込まれていったのか
最後に彼らが考えていたことは何だったのか

彼らの存在を軸にして、
彼らの家族や恋人、友人の証言
またその大嵐に巻き込まれたほかの多くの船の様子や、人々の姿、救助活動
溺死しかけた人たちの言葉なども含め、広範囲のエピソードから
決して知りえない彼らの最期の姿の断片と、
そして『パーフェクト・ストーム』の恐ろしさを痛感する作品です。



感想
前書きで作者が、決してフィクションにしないために取材した事実だけを書くことにした、と言っている通り、
中心となる彼らの様子は、出航前と航海中の無線の声でしか知ることができません。

おそらくこのときこのような行動を取っていただろう、このような状態になっていただろう、というのを、
他の船の様子や、船員の話などから推測できる、というだけです。

実際にどうなったのか、どんな最期だったのかを誰も知ることができない・・・
それが、残された人にとってどれだけ切なくむなしいものなのか・・・
読んでいてもどかしさが残る気持ちから、少しだけわかりました。

もちろん辛さの比は、第三者の立場では想像するしかできませんが・・。

彼らの置かれた状況を書くために、作者は漁業の発展についての話や、
船の構造や波の動きや重力の関係など、専門的な話まで書いています。

私にはところどころ意味がわからなくなってしまい、難しかったのですが、
様々な部分が事細かに書かれているため、目の前で嵐が展開しているような臨場感も感じました。

そしてたくさんの人たちの証言。
実際にパーフェクトストームを経験して生き残った人たちの姿や、
溺死しかけて生還した人の言葉など、重みのある声には圧倒されます。

語り口は静かで、悲しみに偏っていない上、様々なエピソードが切り取られている構成なので読みやすいです。
ただ、そのものの大きさに、読み終わった後呆然としてしまいました。
こんなことが、年に何度も起こるなんて、海は本当に恐ろしいです。

最後に、訳者のあとがきとして、パーフェクトストームで生き残った日本の漁船の漁船員の方にインタビューをしています。
パーフェクトストームに日本の漁船も巻き込まれていたことは、本文にも書かれていましたが、
その当人のインタビューと言うのは載っておらず、訳者がおまけとしてつけてくれたのです。

すごい嵐だったけど、(彼らにとっては)よくあることで、絶対に沈まないと思っていたという言葉には感服しました。
海に生きる男の人たちは、海を恐れながらも、やはりたくましいですね。



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