マートブ!(上下巻)

 ベティ・マムーディ&ウィリアム・ホファー作 内海舳 (三田公美子)訳 ジャンニ・コミュニケーションズ


あらすじ
イラン人の夫ムーディと娘のマートブを連れて、イランに行くことになったアメリカ人のベティ。
イラクと戦争中で、アメリカを敵対しているイランに行くので、不安なまま旅立ちます。

イランの法律では、国に入りムーディがイランから出ないと決めたら、ベティやマートブもアメリカへ帰ることができなくなるのです。
それがわかっていてイランへ行くのは、マートブのためでした。

ベティはアメリカ人ですが、マートブは、イラン人とアメリカ人の間に生まれた子供なのでイラン人でもあります。
もしムーディがマートブをさらってイランへ入ってしまえば、二度とマートブに会えなくなってしまいます。(ベティには、彼が娘をさらっていくような予感がありました)
それを避けるために、一度はイランへ行く必要があったのでした。

イランへ行き、彼がアメリカのよさを痛感してくれることが最後の望みだったのです。


イランは男性優位の社会で、女性は外出時にチャドルという布をまとわなくてはなりません。
チャドルとは、大きな半円形の布で、頭からかぶり、目と鼻と口だけが外に出るようになっているものです。
ベティは飛行機の中で、スカーフをかぶってチャドルの代わりにしました。


イランへついた三人は、ムーディを息子のようにかわいがっている、姉のアメー・ボゾルグの家に滞在することになります。
しかしアメー・ボゾルグの家はとても不潔で、真夏なのに暑苦しいチャドルも身に着けさせられ、ベティとマートブはすっかり嫌気が差してしまいました。
おまけにアメリカ人のベティを彼女は嫌っているのです。


そして、恐れていたことが起こりました。
滞在期間が終わったのに、ムーディは帰らないと宣言し、監禁されることになったのです・・・!

ベティには前の夫との間に二人の息子があり、その上末期がんで闘病中の父親がいました。
一刻も早くアメリカに帰りたいのに、パスポートも現金も奪われ、なす術がなくなります。
そしてムーディは乱暴を働くようになりました。


ようやく大使館に逃げ込んだベティは、しかしそこで逃げられない現実を知ります。
代わりに電話をかけたり手紙を出したりはできても、かくまったり、ましてアメリカに行けるような手配はできないというのです。
ベティの帰る場所は、ムーディのところしかないのです・・・。


大使館のヘレンは、ベティ一人ならアメリカに帰れるのだと言います。
イランでは、子供は父親のものだからマートブは連れて行けない。
だからマートブを置いてアメリカに帰ればいい、と。

しかしベティには、マートブを置いて帰るなんてことは絶対にできません。
愛する娘を置き去りにするなんて、見殺しにするなんて、できるわけがありません。
マートブも泣きながら「置いていかないで」と訴えます。
ベティはなんとしてでも二人でアメリカに帰ると誓います。


ベティはムーディに悟られないように、計画を練り始めます。
アメリカへ帰るためにはどうすればいいか・・・。


やがて社交的なベティには、イランでの友人もでき、辛いながらも楽しい時間も訪れます。
また、苦しむマートブのために少しでも幸せな気持ちにしてあげようと、必死に心配りするベティ。

そんな中、ついに脱出のチャンスがめぐってきました。
うまくいけば娘と二人アメリカに戻れるかもしれない・・・・。



感想
この本との出会いは、笑ってしまうようなものでした。
学校の図書室で、本を探していた私の目に、突然「ストーブ!」というタイトルが飛び込んできたのです。
私は何だそれ?と思い、読み始めました。

数ページ読んで、ストーブのスの字も出てこない・・・代わりに、ベティの娘マートブの名前はたくさん出てきていたので、もしや・・・?と思い、改めて表紙を眺めたら「マートブ!」だったのでした。

あの時間違えてなかったらこの本を読んでいなかったかもしれないので、その勘違いに感謝したいと思っています。
その話を藍にしたら大爆笑され、卒業間近に読み始めたために読み終われなかったということを覚えていてくれて、あとでプレゼントしてくれました。
私にとっては、笑える出会いと共に、藍のやさしさを感じた思い出深い本です。


主人公のベティは、強くてたくましくて、そして暖かい、母性に満ち溢れた女性です。

言葉もわからない、戦争中の国。
アメリカを憎み、女性を差別している国。
そんな場所に監禁されながら、「なんとしても娘と帰国する」という意思をあきらめず頑張りぬく姿は本当にすごいと思います。

特に、彼女の強い母性には感動しました。
日常的に、親が子を虐待したりする事件を見ている中で、それは当たり前のことではありません。
どんな状況でも、母親であり続ける彼女の強さは素晴らしいものです。

そして五歳という小ささでありながら、困難な状況に置かれてしまったマートブの強さにも、私は感動してしまいます。
ペルシャ語を覚え、ベティに秘密と言われたことは絶対に口を割らず、耐え続ける。
その賢さとたくましさは、少なからずベティの支えとなります。

そんな彼女も、ベティと離されるときには泣き出します。
小さなマートブが、この国で信頼できるのはベティだけなのです・・・。

この物語を読んで、「女性は強いんだ」「人間はたくましいんだ」と、とても誇らしい気持ちでいっぱいになりました。
読み終わるといつも、希望や勇気がわいてくるような気がします。



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